大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)4217号 判決
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〔判決理由〕(五) 慰藉料
金五〇〇、〇〇〇円
<証拠>を参斟すれば、原告は、昭和四三年四月郷里の香川県の親許を離れて来阪し、短期大学に通つて二年間デザイン美術、商業デザイン等を専攻したうえ、昭和四五年四月から前記会社に就職し、商業デザイナーを志しながら専門知識を活かして稼動していた未婚の妙令の女性であつたが、本件事故に基づく受傷のため長期間にわたり苦しい治療生活を余儀なくされたのみか、患部の左肩に前記のような手術痕がのこり、著しい精神的苦痛を被つていることが認められる。ところで、ここで原告の右後遺症としての手術痕について考えてみると、原告にのこつた右手術痕のごときは、女性のもつとも忌み嫌うところであつて、このことは原告のような妙令未婚の女性にとつてはなおさらのことであることは周知のとおりであるが、他方、原告の右傷痕は、水着姿になつたときとか、あるいは、浴場に赴いた際等に衆人の目に触れることになるのは当然のことながら、このような機会はそう頻繁にあるわけではなかろうし、また、夏季などに昨今流行のノースリーブの服装をした場合等にも衆人の目に触れることになるであろうが、その際目に触れるのは極く一部であり、概して、それが一般の日常生活において衆人の目に触れる機会は極めて稀であろうと考えられる。さらに、右傷痕は、手術痕であつて、挫傷などと異り、陳旧化するに従い目立たなくなることも十分予想される。そうすると、右手術痕の故に原告において将来並々ならぬ精神的苦痛を味つて行かなければならないであろうことは否定できないとしても、その程度は顔面、その他の露出部分に傷痕をのこした場合に比らべおのずから限度があるものと思料される。そして、以上認定の本件事故により原告が被るに至つた傷害の部位、程度、その治療に要した期間、後遺症状の程度、後に詳細に認定する本件事故の態様、その他本件にあらわれた一切の事情によれば、本件事故により原告が被るに至つた精神的苦痛を慰藉するに足りる金銭賠償額は、金五〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。
五 過失相殺
本件事故は、横断歩道上を横断中の原告に被告高運転の加害車が衝突することにより生じたものであること前記のとおりであるが、<証拠>を綜合すれば、本件事故当時原告は、東西に通ずる道路上の前記横断歩道上を北から南に向つて横断するため、まず右側西方を見たところ、接近して来る車両はかなり遠方にあつたため、横断を開始したうえ道路中心線付近に進んで行き、同所において今度は反対の左側東方を見たところ、接近して来た大型貨物自動車が横断歩道の手前で一時停車したうえ歩行者の横断を待つたので、そのまま右大型貨物自動車の前部を通り過ぎながら横断を続けたこと、他方、被告は、加害車を運転し、前方を行く右大型貨物自動車およびこれに続くタクシーに若干遅れその後方を東から西に向つて右横断歩道に接近して行つたところ、右大型貨物自動車、ついで、その後を進行していた右タクシーが順次右横断歩道の手前で一時停車するのを認めたが、右大型貨物自動車は同所において右折するため一時停車をしたものと妄断し、ここにその左側方を追い抜き進行しようと考え、そのまま進行を続けようとしたところ、右一旦停車したタクシーが発車し、進路を加害車と同様右大型貨物自動車の左側にとろうとする気配を示したので、これに対し警笛を鳴らして加害車の接近を警告しながら進行することに気を奪われ、右横断歩道上の歩行者の有無につき十分な関心を払わなかつたため、前記横断歩行中の原告を前方に発見したときは、その間に距離約17.3メートルをあますのみで、加害車の当時における毎時約五五キロメートルの速度から、急制動等の措置を講ずるも間に合わず、そのまま原告に衝突するに至つたことが認められ、右認定の事実によれば、本件事故は、原告においてはそれ相当の注意を払つて横断歩行していたにもかかわらず、被告高において本件事故発生地点である横断歩道のかなり手前において右横断歩道上を原告が横断中であることを十分予見できたにもかかわらず、加害車の進路前方に対する注意をゆるがせにしていた不注意のため、これをいち早く察知して横断歩道の手前で一旦停車し、もつて横断者の横断を妨げないようにすることができずに惹起されたものであるといわなければならず、これによれば、本件事故発生についての責任はすべて同被告の側にあること誠に明らかである。したがつて、被告らの過失相殺の主張はこれを採らないものである。(小酒礼)